結論

嫌い箸というのは箸の禁じ手をまとめて呼ぶ言葉で、 数だけを見ると多いものの、 理由ごとに分けてしまえば4つのまとまりに収まります。

このうち弔事に由来するものだけは理屈で導けませんので、 渡し箸・拾い箸・立て箸というこの3つについては、名前のほうで覚えてしまってください。

嫌い箸とは

改まった会食の席に着いたところで、自分の箸の使い方が急に気になり始めてきます。 一覧を検索してみたところで、聞いたこともない名前が並んでいるばかりで、 料理が運ばれてくるまでのあいだにひととおり覚えられるようなものではありません。

困るのはその数の多さで、数え方にもよりますが20から40ほどあり、 名前と動作を対にして並べられても、そのままでは頭に入っていきませんので、 名前を並べて覚えるより、分類のほうを先に押さえてしまうほうが早く身につきます。

分類性質
弔事に由来理屈で導けません。名前で覚える必要があります
箸で物を動かす「箸は掴む道具」と考えれば導けます
音を立てる言われれば、その場でも判断がつきます
人を不快にする同席している人から見た印象の問題になります

この4つのうち、上の1つだけを覚えておけば、あとはその場で考えれば分かります。残りの3つは、箸が掴んで口へ運ぶための道具だという一点から導けてしまうものが大半だからです。全部を暗記しようとするとかえって食事の最中に思い出せなくなりますので、分類のほうを先に頭へ入れてください。

箸の作法そのものは、いまでも受け継ぐべきものとして受け止められています。 農林水産省が令和7年10月30日から11月28日にかけて、 全国20歳以上から無作為に選んだ5,000人へ行った「食育に関する意識調査」では、 箸づかいなどの食べ方・作法を受け継ぐことを大切だと答えた方が 86.7%にのぼりました。

同じ調査で有効回収は2,391人、実際に「受け継いでいる」と答えた方は67.2%です。 受け継いでいる内容としては、 「お椀を手に持つ」「迷い箸をしない」「音をたてない」といった 日常の食事のマナーを挙げた方が83.8%を占めていました。

弔事に由来するもの

嫌い箸のなかで、いちばん先に覚えておきたいのがここに挙げる3つになります。 いずれも動作としては何も不自然なところがなく、 むしろ親切のつもりでやってしまうものばかりですから、 その意味を知らないままでいると、避けようがないままになってしまいます。

由来は火葬後の骨上げにあり、 箸から箸へ料理を渡すことも、器に箸を立てて置くことも、 葬送の場でしか行わない所作ですので、食卓に持ち込むと場の意味が変わってしまいます。

名前どんな動作か
拾い箸箸から箸へ直接渡すことです。皿に置いてから取ります
立て箸ご飯に箸を突き立てて置くことです
渡し箸器の上に箸を渡して置くことです

この3つのなかでは、拾い箸がもっとも起きやすい場面を持っています。「これおいしいよ」と分けようとしたときに、つい箸から箸へ渡してしまうためです。相手に取ってもらうときは、いったん取り皿に置いてから、そこから取ってもらうようにしてください。

立て箸のほうは、家庭での何気ない食事でうっかり出てしまうことがあります。 席を立つあいだに箸をどこへ置くか迷って、 茶碗のご飯に差してしまうという形ですが、 これは枕飾りの一膳飯とそっくり同じ姿になりますので、箸置きか器の手前に横向きで置きます。

渡し箸のほうは、箸置きが出ていない店に入ったときに起こりがちです。 置き場所がないまま器の縁に渡してしまうことになりますので、 割り箸の袋を折って箸置きの代わりにするか、 器の手前に箸先だけを出して置いておけば、この形は難なく避けられます。

渡し箸について詳しく見る

箸で物を動かすもの

料理が並び始めると、箸を持ったまま何かをしようとする場面が増えてきます。 遠くの小鉢を引き寄せたい、大皿の下のほうにある一切れを取りたい、 どれから手をつけるか決めきれない、といった場面ばかりで、 いずれも、箸を持ったままのほうが早いように思える動作ばかりです。

考え方としては箸は掴んで口へ運ぶ道具だという一点で、 それ以外の用途に使うものがまとめて禁じ手になっていますから、 名前を覚えていなくても、その場で判断がつきます。

名前どんな動作か
寄せ箸箸を使って器を手元へ引き寄せることです
刺し箸料理に箸を突き刺して取り上げることです
探り箸器の中をかき混ぜて中身を選ぶことです
迷い箸どれを取るか、箸を動かしながら迷うことです
移り箸取りかけてから、別の器に移ることです
せせり箸箸先を爪楊枝の代わりに使うことです

ここに並んでいるものは、いずれも手を使えば済んでしまう動作です。箸を持ったまま片づけようとした結果として起こりますので、逆に言えば、一度箸を置いてしまえばどれも出てきません。片手がふさがっているときほど、箸を持ったまままとめて済ませたくなるものです。

このなかで無意識に出やすいのが寄せ箸で、 鍋を囲んでいる席や、大皿が遠い席では、とくに起こりやすくなります。 器が遠いと感じたら、箸を置いて手で持ち上げるという順にすれば、 そもそも寄せ箸という動作の出る余地がなくなります。

刺し箸のほうは、里芋や大ぶりの煮物を取るときにいちばん出やすくなります。 掴みにくい形のものほど刺したくなりますが、 箸を寝かせて下から支えるように取ると、崩さずに持ち上げられます。 それでも取りにくいようなら、取り皿を器のそばまで寄せてから移してください。

人を不快にするもの

この分類に入ってくるものには、はっきりとした由来や理屈があるわけではありません。 同席している人から見てどう映るかで決まりますので、 家族との夕食では誰も気にしなかった動作が、 取引先との会食では急に気になる、ということが起こります。

そのため間柄によって許される幅があるのがこの分類の特徴で、 作法として覚えるというより、 向かいに座っている人の目にどう映っているかで考えるほうが、判断を誤りません。

名前どんな動作か
指し箸箸の先で人や物を指し示すことです
ねぶり箸箸先を口でなめてしまうことです
涙箸箸先から汁を垂らしながら運ぶことです
叩き箸箸で食器を叩いて音を出すことです
噛み箸箸先を口のなかで噛んでしまうことです
握り箸箸を握り込むように持つことです

このなかでは指し箸が突出して出やすく、しかも本人がまず気づきません。話に熱が入ってくると、箸を持ったままの手がそのまま動いてしまうためです。話すときには箸を置くと決めておけば、指すこともなくなりますし、口元がふさがらないぶん話も聞き取りやすくなります。

涙箸のほうは、汁気のある料理を遠くの器から取ろうとしたときに出てきます。 煮物の煮汁や、鍋から取り分けた具の水気が卓に落ちますので、 取り皿を器のそばまで持っていってから移すようにすれば防げますが、 箸の下に手を添えて受け止めるやり方は、かえって行儀が悪いものとして見られます。

握り箸のほうは、力を入れて掴もうとしたときに持ち方が崩れて出てくるものです。 硬い食材や大ぶりの具を相手にすると出やすくなりますので、 掴みにくいと感じた時点で、箸を持ち直してしまうほうが確実です。 箸を持ち直すという動作そのものを、気にして見ている人はまずいません。

とくに多い3つ

一覧に並んだ名前を全部覚えてから食事に臨むというのは、現実には無理があります。 名前を思い出そうとしているあいだにも料理は運ばれてきますし会話も進んでいきますので、 数の多い一覧を端から追うより、 実際に起きやすいものから順に押さえていくほうが役に立ちます。

よく出るものには他の動作のついでに起こるという共通点があり、 分けようとして、器を寄せようとして、話に夢中になって、という具合ですから、 いずれも悪気があって出るものではありません。

起きる場面代わりにすること
料理を分けようとして(拾い箸)いったん取り皿に置いてから取ってもらいます
器が遠くて(寄せ箸)箸を置いてから、手で器を持ち上げます
話に熱が入って(指し箸)話すときには、箸をいったん置きます

この3つは、いずれも「箸を置く」というひとつの動作で片づきます。箸を持ったまま別のことを済ませようとしたときに、禁じ手のほうへ転がっていくためです。何をすべきか迷ったら、まず箸を置いてしまう、と決めておけば大きく外しません。

してしまったことに気づいたときは、その場で言い直す必要はありません。 「いま拾い箸をしてしまいました」などと述べれば、それだけで場が止まりますし、 同席している人にも気を遣わせることになりますので、 気づいた次から気をつければ、それで十分に足ります。

同席している人がしてしまっていた場合も、その場では指摘しないでいてください。 その場で正されてしまうと相手は食事どころではなくなりますし、 作法を守ることより、同席した人が気持ちよく食べられることのほうが 先に立ちますので、気づかないふりをしておくのも、この場合はひとつの作法になります。

箸の置き場所を見る

嫌い箸に唯一の正解があるわけではなく、 その席が家族との夕食なのか改まった会食なのか、 同席しているのが誰なのかを見て、 気にする範囲を決めればそれで足ります。 身内だけの食卓であれば持ち方まで気を張る必要はありませんし、 取引先との席であれば、箸を置くところだけを意識しておけば形になります。

どの席でも変わらないのは、迷ったらまず箸を置くという一点だけで、 これさえ守っていれば、名前や由来を思い出せなくても不作法にはなりません。 箸を持ったままにしておくから、禁じ手のほうへ転がっていきます。

よくある質問

嫌い箸とは何ですか?

箸の禁じ手をまとめて呼ぶ言葉で、「忌み箸」とも言います。数え方にもよりますが20から40ほどあります。理由ごとに分けると「弔事に由来」「箸で物を動かす」「音を立てる」「人を不快にする」の4つのまとまりになります。

どれから覚えればいいですか?

弔事に由来する3つ(拾い箸・立て箸・渡し箸)です。これだけは理屈で導けないため、名前で覚える必要があります。ほかは「箸は掴む道具」「音を立てない」と考えれば、その場で判断できます。

拾い箸とは何ですか?

箸から箸へ料理を直接渡すことです。火葬後の骨上げを連想させるため避けられます。「これおいしいよ」と分けようとしたときに起こりやすいので、いったん取り皿に置いてから取ってもらってください。

寄せ箸をついやってしまいます

箸で器を引き寄せる動作です。片手がふさがっているときや、器が遠いときに無意識に出ます。箸をいったん置き、手で器を持ち上げてください。

指し箸を防ぐには?

話すときに箸を置く習慣をつけてください。指し箸は話に熱が入ったときに出ます。箸を置けば指すこともなくなり、口元がふさがらないぶん話も聞き取りやすくなります。

嫌い箸をしてしまったらどうすればいいですか?

その場で言い直したり謝ったりする必要はありません。かえって場が止まります。気づいたら次から気をつければ十分です。同席者がしていても指摘しないでください。

まとめ

  • 嫌い箸は箸の禁じ手をまとめて呼びます
  • 理由ごとに4つのまとまりに分けられます
  • 拾い箸・立て箸・渡し箸は名前で覚えます
  • ほかは「箸は掴む道具」で導けます
  • 器が遠いときは箸を置いて手で持ち上げます
  • 話すときはいったん箸を置きます
  • してしまってもその場では言い直しません
  • 迷ったら、まず箸を置きます

参考情報

  1. 農林水産省「食文化のポータルサイト」
    https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/index.html
  2. 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」
    https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/
  3. 農林水産省「食育に関する意識調査」(令和8年3月公表・全国20歳以上・標本5,000人の層化2段無作為抽出・令和7年10月30日〜11月28日実施・有効回収2,391人)
    https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/ishiki/r08/pdf_index.html

農林水産省の食育に関する意識調査は、箸づかいを含む食べ方・作法を受け継ぐことについての意識を無作為抽出で尋ねたもので、嫌い箸の一つひとつがどれだけ守られているかを測ったものではありません。食事の作法に公的な基準はありません。本記事は広く共通して挙げられる目安をまとめたものです。地域・店の格式・間柄によって実際には異なります。(最終確認:2026年8月)

本記事で紹介している作法は一般的な目安です。細かな作法を完璧に守ることより、同席する人が気持ちよく食べられることのほうが大切です。格式の高い店や改まった席では、店の案内に従ってください。