結論

目上の方との乾杯ではグラスの縁を相手より少し下げますし、 始める時機は全員に飲み物が行き渡ってからで、 卓の端の一人にまだ届いていないうちに号令をかけると、その方だけが取り残されます。

手にしているものはお酒でなくても構いませんし、 乾杯は場の始まりを知らせる合図であって、飲むことそのものが目的ではありませんので、 ウーロン茶でもノンアルコール飲料でも、掲げてしまえば果たす役目は変わりません。

乾杯までの流れ

乾杯は会食の始まりを示す合図で、ここで一度区切りをつけてから食事が始まりますが、 実際に迷うのは手の動かし方よりもいつ始めるかのほうです。 グラスを持ったまま周りをうかがい、誰かが口火を切るのを待っている時間は、 幹事にとっても居心地のよいものではありません。

分かれ目になるのは早いか遅いかの一点で、早すぎると全員に飲み物が届いていませんし、 遅すぎると運ばれてきた前菜の湯気が消え、料理のほうが冷めていきます。 泡が落ちきったジョッキで乾杯するのも、まだ何も届いていない人の前で号令をかけるのも、 どちらも同じ「時機を外した」状態です。

順やること
1全員に飲み物が行き渡っているかを目で確かめます
2幹事が声をかけて、卓の話し声を静めます
3音頭を取る方が、短く挨拶を述べます
4全員がグラスを持ち、そろえて乾杯します
5一口飲んでから、グラスを卓に置きます

1を飛ばさないでください。飲み物が届いていない方が一人でもいると、その方だけが乾杯に加われず、あとから一人でグラスを掲げ直すことになります。注文の遅れは入口から遠い卓の端ほど起きやすいので、幹事は自分の手元ではなく、いちばん遠い席のグラスを見てから合図します。

待っているあいだに喉が渇いてきても、号令がかかるまでの数分は乾杯まで口をつけずにおきます。 注がれたばかりのグラスが自分の分だけ半分ほどに減っていると、 全員でグラスを合わせる場でその一つだけが目に入ってしまいます。 どうしても先に飲みたいのであれば、乾杯用とは別に水やお茶を頼んでおきます。

乾杯のあとは一口飲んで、グラスを卓に置くところまでが一続きの動作です。 掲げたまま話し始めると同席の方も置くに置けませんし、 先に料理へ箸をつける人と、まだグラスを持ったままの人に分かれてしまいますので、 いったん全員の手が空く形にしてから食事に移ります。

グラスの高さ

乾杯ではグラスを合わせるのが一般的ですが、 向かい合った相手が部長や取引先の方だと、どのくらいの高さで出せばよいのかで手が止まります。 勢いよく当てて音を立てるのも、遠慮しすぎて空振りするのも、どちらも決まりが悪いものです。

判断の軸は相手が目上かどうかの一点で、 目上の方や取引先に対しては縁を少し下げて合わせます。 同じ高さでまっすぐ当てると、対等に構えた形に見えてしまうためで、 逆に同僚や友人が相手であれば、高さをそろえて当てて構いません。

相手・場面グラスの高さ
目上の方・取引先相手の縁より少し下の高さで合わせます
同僚・友人同じ高さで合わせて構いません
遠くて届かない目を合わせて、軽く掲げるだけで伝わります
ワイングラス当てずに、目の高さへ掲げるだけにします
持つ場所ワインは脚(ステム)のほうを持ちます

ワイングラスだけは、乾杯の場であっても合わせずに掲げるだけにします。薄く作られているぶん、当たりどころによっては縁が欠けますし、フォーマルな席では目の高さに軽く掲げるだけが作法とされています。脚を持つのは、手のひらの熱が中身に伝わるのを避けるためでもあります。

困るのは長い卓の端と端に分かれて座っている場合で、 身を乗り出して手を伸ばせばほかの方のグラスや料理にぶつかります。 そこまでして全員と当てて回る必要はなく、離れている相手とは目を合わせて軽く掲げれば、 それで乾杯を交わしたことになります。

高さについても、相手のグラスと正面から測るように見比べる必要はどこにもありません。 目上の方に向けるときは、相手の手元よりわずかに低い位置へ出す気持ちで差し出せば十分で、 当てる直前に少し手を落とすだけでも、こちらの構えは相手に伝わります。

飲めない人がいる場合

お酒を飲まない方が同席していると、乾杯の一杯目をどうするかで卓の空気が止まります。 本人は言い出しにくく、幹事は幹事で全員のグラスを揃えたほうがよいのかを迷い、 注文を取りに来た店員さんの前で沈黙が生まれます。

そもそもの前提として、乾杯は必ずお酒で行わなければならないものではありません。 それでも実際に困るのは周りが揃えようとすることのほうで、 「最初の一杯だけは」と勧められると、その場では断りにくくなります。

立場やること
飲めない本人注文の段階でソフトドリンクを頼んでおきます
幹事注文のときに、全員の希望を一人ずつ聞きます
周りの人「最初の一杯だけ」と勧めるのはやめておきます
理由を聞かれた答える義務はなく、笑って流して構いません

注文を通す前に、幹事が全員の希望を一人ずつ聞いてしまうのがいちばん確実です。本人が自分から言い出さずに済みますし、飲み物が運ばれてきた時点で卓の上に何種類か並んでいれば、乾杯の場でウーロン茶のグラスだけが目立つこともありません。

一杯目を全員で揃える必要がもうないことは、市場の数字にも表れています。 サントリーホールディングスが2025年6月24日から30日にかけて実施し、 月1日以上ノンアルコール飲料を飲む1,751人から回答を得た「ノンアルコール飲料レポート2025」によれば、 2024年の市場は4,584万ケースで前年比111パーセント、10年前の約1.6倍にあたり、 2025年の見込みは約4,730万ケースとされています。

同じ調査では、月1日以上の飲用者のうち約7割が「積極的に選んでいる」と答え、 7割以上が飲食店での提供機会が増えることを希望しています。 仕方なく選ばれているのではなく進んで選ばれている以上、 飲まない方に合わせて注文を取ることは、もはや特別な気づかいではありません。

勧め方についてはもう一段はっきりしていて、 体質によっては少量でも強く反応する方がいますし、 服薬中の方、妊娠中の方、帰りに運転を控えている方も同じ卓に座っています。 厚生労働省も、体質や年齢によってお酒の影響が異なることを示していますので、 「最初の一杯だけ」「乾杯だけなら」という言い方は、 断りにくい形で飲酒を求めることになります。

音頭を頼まれたら

席に着いてから幹事や上位の方に「乾杯の音頭をお願いします」と振られると、 その場で断るわけにもいかず、料理が並んだ卓を前に頭が真っ白になります。 何を話せばよいのか分からないまま立ち上がることになるのが、いちばん落ち着かない場面です。

身構える必要はどこにもなく、長い挨拶はその場でそもそも求められていません。 目の前には温かいうちに出された料理が並んでいて、全員がグラスを持って待っている状態ですので、 短いほど喜ばれるという点が、ふだんの挨拶といちばん違うところです。

項目目安
長さ30秒以内、2〜3文でまとめれば足ります
内容集まりの趣旨と、簡単な礼を述べます
締めの言葉「それでは、乾杯」で締めくくります
立つか座るか立って述べるのが一般的です
避けること個人的な話や業績の報告は、席が進んでからにします

例文としては「本日はお集まりいただきありがとうございます。〇〇の門出を祝して。それでは、乾杯」で十分です。ここで長い謝辞を並べると料理が冷めていきますし、聞いている側はグラスを持ち上げたまま腕を下ろせません。話したいことがあるなら、食事が進んでからのほうがよく聞いてもらえます。

頼まれる場面はたいてい前触れがなく、乾杯の直前に名指しされることも珍しくありません。 それでも集まりの趣旨を一言入れておけば形になりますので、 歓迎会なら誰を迎える席なのか、送別会なら誰を送る席なのかを口にしてから、 「それでは、乾杯」へつなげます。

立ち上がるかどうかで迷ったときは、立って述べるほうが声が通ります。 座卓の座敷で立ちにくいのであれば、膝立ちのまま少し体を起こすだけでも構いませんし、 大切なのは姿勢そのものより、卓の端の席まで声が届いているかどうかです。

お酒と場の振る舞いの記事

会食の場で迷うのは食べ方だけではなく、 一杯目をどうするか、席を立つ時機をどう計るか、手元の画面を見てよいかといった、 料理とは別のところで手が止まります。 乾杯が済んで場が動き出してからのほうが、判断に迷う場面はむしろ増えていきます。

それぞれ関わる相手が違うのがやっかいなところで、 お酒の断り方は隣に座っている方との話ですし、席を立つ時機は卓の全員に関わり、 画面を見てよいかどうかは主賓や目上の方の目に映る話になりますので、 いま迷っているものから直接お読みいただくのがいちばん近道です。

この中でいちばん先に読んでおきたいのはお酒の断り方で、 乾杯の一杯目を切り抜けても、席が進めば注ぎに来られる場面が必ず訪れます。 そのときに使える言い方を一つ持っているかどうかで、 その後の二時間の落ち着き方がまるで変わってきます。

席を立つ時機と手元の画面については、乾杯そのものとは離れますが、 同じ卓で同じ二時間を過ごすうえでの作法という点では地続きです。 卓の端に伏せてあるおしぼりを取って手を拭き、 グラスを置いてから立つといった細かい動きまで含めて、 迷いそうなところをそれぞれの記事にまとめてあります。

乾杯の作法に唯一の正解があるわけではなく、相手が目上かどうかと、 全員の手元に飲み物が届いているかどうかの二つを見て、 その場でいちばん収まりのよい形を選べば足ります。 同僚だけの席なら高さをそろえて当てればよく、取引先の方が向かいにいるなら縁を少し下げ、 遠くて届かない相手には目を合わせて掲げるだけで伝わります。

どの席でも変わらないのは、全員が同じ時機に始められるようにすることの一点だけで、 これさえ守っていれば、細かい高さや言葉を思い出せなくても失礼にはなりません。 手にしているものがお酒かどうかは、そのあとに続く二時間の過ごしやすさとは関係がありません。

お酒を断るときの伝え方を見る

よくある質問

乾杯でグラスは合わせますか?

同僚や友人となら合わせて構いません。目上の方や取引先に対しては、グラスの縁を相手より少し下げてください。同じ高さで合わせると、対等に構えた形に見えます。

ワイングラスも当てていいですか?

当てないでください。薄く作られているため、当たりどころによっては縁が欠けます。フォーマルな席では、目の高さに軽く掲げるだけが作法です。持つときは脚(ステム)を持ちます。

乾杯の前に飲んでもいいですか?

乾杯までは口をつけないでください。自分の分だけ先に減っていると、全員でグラスを合わせる場でそこだけが目に入ります。喉が渇いているなら、乾杯用とは別に水やお茶を頼んでおきます。

お酒が飲めない場合、乾杯はどうしますか?

ソフトドリンクで構いません。乾杯は場を始める合図であって、飲むことが目的ではありません。注文の段階で頼んでおけば、乾杯の場で目立つこともありません。

飲めない人に「最初の一杯だけ」と勧めてもいいですか?

勧めないでください。体質によっては少量でも強く反応する方がいますし、服薬中の方、妊娠中の方、帰りに運転を控えている方もいます。断りにくい形で飲酒を求めることになります。

乾杯の音頭を頼まれたら、何を話せばいいですか?

30秒以内、2〜3文で足ります。集まりの趣旨と簡単な礼を述べ、「それでは、乾杯」で締めてください。料理が並んでいる状態ですので、長い話は席が進んでからにします。

まとめ

  • 目上の方にはグラスの縁を少し下げます
  • ワイングラスは当てず、掲げるだけにします
  • 全員に飲み物が行き渡ってから始めます
  • 乾杯までは口をつけません
  • 手にするものはお酒でなくても構いません
  • 「最初の一杯だけ」とは勧めません
  • 音頭は30秒以内でまとめます

参考情報

  1. 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38541.html
  2. 厚生労働省 e-ヘルスネット「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-03-003.html
  3. 農林水産省「食文化のポータルサイト」
    https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/index.html
  4. 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」
    https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/
  5. サントリーホールディングス株式会社「ノンアルコール飲料レポート2025」(2025年6月24日〜30日実施・インターネット調査・事前調査30,000人/本調査1,751人)
    https://www.suntory.co.jp/news/article/14881.html

サントリーホールディングスの調査は、対象地域が一都三県に限られており、ノンアルコール飲料を製造販売する事業者が自社で実施したものです。飲酒量については厚生労働省の指針を参照しています。食事の作法そのものに公的な基準はなく、広く共通して挙げられる目安をまとめたものです。(最終確認:2026年8月)

飲酒は体質・体調・服薬状況によって影響が大きく異なります。飲めない方に飲酒を勧めることは、相手の健康を損なうおそれがあります。断る側・勧める側のどちらの立場でも、無理をしない・させないことを最優先にしてください。