結論

出ていくときの手土産は必須ではなく、 引越しの前日に玄関先で「長いあいだお世話になりました」と伝えるだけでも十分に足ります。 去っていく側からの品物は相手に返す機会がありませんから、 丁寧にしたつもりが、かえって気を遣わせてしまうこともあります。

渡すのであれば、のしの表書きは「御礼」と書いておいてください。 これから付き合いが始まる新居側の「御挨拶」とは、示している向きがちょうど逆になりますから、 同じ菓子折りであっても、上にかける紙の二文字だけは書き分けが要ります。

必要かどうか

引越しが決まると、新居のほうの挨拶まわりばかりが話題にのぼって、 いま住んでいる側で何をするかは後回しになりがちです。 積み上げた段ボールに囲まれながら、 両隣にも品物を持って行くものかどうかで手が止まってしまう人は少なくありません。

迷いの元になるのは、旧居での挨拶が新居ほど習慣として根づいていないという事情のほうです。 これまでに近所から引越しの品をもらった記憶がないぶん、 渡さないのが普通なのか、それとも自分が知らないだけなのか、そもそもの見当がつきません。

状況扱い
付き合いが浅い 立ち話程度の間柄なら、言葉だけの挨拶で足ります
世話になった 品物があると、気持ちがはっきり伝わります
長く住んだ 十年を超えるようなら渡す人が多くなります
賃貸で数年 そのまま省いても差し支えありません
迷惑をかけた 詫びのしるしとして渡す形もあります

品物を渡さないまま引き払ったとしても、それで失礼にあたることはありません。去っていく側から品物を差し出されると、相手はお返しをする機会がないまま受け取ることになりますし、こちらの引越し当日は業者の出入りと立ち会いで手いっぱいになります。言葉だけの挨拶で区切ったとしても、後々まで残るようなしこりにはなりません。

実際に困るのは、荷物の搬出で階段や廊下をふさぐことになる当日で、 朝から台車が行き来し、玄関の前には養生シートが敷かれます。 その騒がしさのなかで箱を差し出しても、 相手は玄関先で片手のまま受け取ることになりますし、こちらも落ち着いて話せません。

渡すつもりがあるなら、搬出の前日までに済ませておくほうが、互いにずいぶん楽になります。 当日は「今日から出ていきます」と一言かけるだけにしておけば、 相手も玄関先で立ち話を続けずに済みますし、こちらも作業に手を戻せます。

渡す相手

渡すと決めたところで、こんどはどこまで配るかという範囲のほうで手が止まります。 集合住宅なら同じ階の全戸なのか、それとも両隣と真上真下だけでよいのか、 数え方ひとつで用意する箱の数がまるで変わってきますし、あとから買い足すのも手間です。

ここで見るのは、その相手に実際に世話になったかどうかという一点だけです。 形をそろえるために全戸へ配るより、鍵を預かってもらった相手や回覧板を回してくれていた相手に絞るほうが、 渡された側にとっても受け取る意味がはっきりします。

相手扱い
世話になった相手 渡す理由がはっきりしていて、収まります
両隣・上下 音の行き来があるので、渡す人が多くなります
大家さん・管理人さん 長く住んだのなら、必ず渡しておきます
組長・自治会長 一戸建てなら渡しておく形もあります
面識のない住人 かえって戸惑わせるので、渡しません

面識のない相手にまで渡すと、かえって戸惑わせることになります。顔も名前も分からない人から菓子折りを差し出されると、受け取った側は何かの勧誘かと身構えますし、後になって何かを返そうとしても、こちらはもう引っ越したあとです。実際に関わりのあった相手だけに絞っておくほうが、渡す側としても気が楽になります。

判断が難しいのが大家さんや管理人さんで、 家賃を払っていたのだから礼は要らないと考える人もいれば、 雨漏りや給湯器の不具合で何度も動いてもらった人もいます。 同じ立場の相手であっても、住んでいた年数と建物の古さによって、関わりの深さはまるで違ってきます。

そこは手を煩わせた回数で決めれば十分で、 鍵の交換や退去の立ち会いまで含めて世話になったのなら、 菓子折りの一つを置いてくるほうが落ち着きます。 用事のたびに管理会社へ電話するだけで済んでいた間柄なら、退去の挨拶だけで区切ってかまいません。

金額と品物

品物を選ぶ段になると、こんどはいくらのものにするかという値ごろのところで手が止まります。 新居の挨拶用にまとめて買ったタオルと同じでよいのか、 長く世話になったぶんだけ少しは上げるべきなのか、店先で値札を見比べながら決めかねます。

目安を決めるときに効いてくるのは、 受け取った相手が返す機会を持てないという事情です。 こちらは数日のうちに引っ越してしまうわけですから、少しでも重い品を渡すと、 返しようのない借りだけを置いていくことになります。

項目目安
金額 500〜1,000円ほどに収めておくと無難です
世話になった相手 1,000〜2,000円まで上げて構いません
向く品 菓子や洗剤、タオルなら使い道に困りません
高額な品 返す機会がないので、負担にしてしまいます
家にあるものを譲る 欲しいと言われた場合だけにしておきます

不要になった家財を、置き土産のように押しつけないでください。使わなくなった棚やカーテンを引き取ってもらえばこちらの処分費用は浮きますが、相手のほうには粗大ごみの手続きと運び出しの手間がそっくりそのまま移ります。譲るのは、相手のほうから欲しいと言われた場合だけにとどめてください。

引越し前は財布のひもがゆるみがちで、世話になった気持ちが先に立つと、 つい三千円や五千円の詰め合わせに手が伸びます。 ところが受け取った側は、もう会うこともない相手にどう返せばいいのかが分からないまま、 その箱を手元で持て余すことになります。

気持ちの重さは金額ではなく言葉のほうで伝えると決めておけば、店先で迷わずに済みます。 品物は千円までの菓子にしておいて、玄関先で「何かと助かりました」と一つ具体的に挙げれば、 そちらのほうがよほど長く相手の記憶に残ります。

のしの書き方

のしをかけると決めたあと、こんどは表書きに何と書くかというところで手が止まります。 文具店や百貨店の売り場には、新居用に「御挨拶」とあらかじめ刷られたのし紙が並んでいますから、 深く考えないまま流用してしまいそうになります。

違いが出るのは、これから始まる付き合いか、これまでの付き合いかという時間の向きです。 旧居で渡す品は、この土地で受けた世話への礼として最後に出すものですから、 表書きのほうも、その向きに合わせた言葉を選ぶことになります。

項目書き方
表書き 「御礼」と書くのがいちばん収まります
水引 紅白の蝶結びを選んでおけば間違いありません
名前 名字だけを書いておけば十分に足ります
「御挨拶」 これから始まる印象になるので使いません
のしなし 親しい相手なら、かけなくても構いません

旧居で渡す品の表書きは、「御挨拶」ではなく「御礼」にしてください。去る側が「御挨拶」と書くと、これから付き合いが始まる家からの品のように読めてしまい、受け取った相手が一瞬とまどうことになります。同じ菓子折りであっても、上にかける紙の二文字で意味が入れ替わりますから、そこだけは書き分けてください。

かけ紙を用意しないまま当日を迎えることもありますし、 段ボールに埋まった部屋から文具店まで出直すのは現実的ではありません。 そういうときは、店で包装だけしてもらった菓子を紙袋のまま渡しても、それで失礼にあたることはありません。

のしそのものより大事なのは名字が相手に分かることで、 何年も隣に住んでいても、名前までは覚えられていないことが珍しくありません。 細いかけ紙に名字を書いておくだけで、 後から誰からの品だったかで相手を悩ませずに済みます。

のしの表書きを詳しく見る

渡さないほうがいい場合

一方で、渡すこと自体がかえって相手の負担になる場合があり、 丁寧にしたつもりの品物が思わぬ読まれ方をすることがあります。 とくに引越しの理由をなんとなく近所が知っている場合には、 品物にその事情まで重なって見えてしまいます。

境目になるのは、差し出した品物が相手に何の意味で取られるかという点です。 世話になった礼としてそのまま受け取ってもらえる間柄なら問題はありませんが、 間に一度でも何かあった相手だと、詫びとも当てつけとも読める余地がどうしても残ります。

状況扱い
関係がこじれている 品物は控えて、言葉だけにしておきます
面識がない 誰か分からず戸惑わせるので渡しません
短期間の入居 半年ほどなら省いても差し支えありません
相手が高齢で一人暮らし 受け取り自体を負担に感じることがあります
生ものを渡す 日持ちせず、扱いに困らせてしまいます

関係がこじれてしまっている相手には、品物を渡さないほうが収まります。騒音や駐車のことで一度でも言い合いになっていれば、菓子折りは詫びのしるしにも、逃げ際の当てつけにも読めてしまい、収まりがつきません。玄関先で「お世話になりました」と頭を下げるだけで区切るほうが、互いのあとに何も残りません。

判断に迷うのが高齢の一人暮らしの方で、品物を渡すと、 その場で何かお返しになるものを探して家の奥へ戻ってしまうことがあります。 こちらは軽い気持ちで渡したつもりでも、 相手にとっては、その日のうちに片づけたい用事が一つ増えたのと変わりません。

そういう相手には、品物を用意するより先に声をかけておくほうがよほど喜ばれます。 引越しの日取りを一週間ほど前に伝えておけば、当日の物音にも驚かせずに済みますし、 次にどんな住人が入るのかという心配も含めて、安心して見送ってもらえます。

渡す渡さないに決まった正解があるわけではなく、 住んでいた年数と、その相手にどれだけ手を借りたかを見て決めればそれで十分です。 数年の賃貸で立ち話しかしていない間柄なら言葉だけで足りますし、 十年を超えて世話になった相手であれば、千円ほどの菓子折りを一つ添えるのも自然に見えます。

どの相手でも変わらないのは、 受け取った側に何も残さない形にすることの一点だけです。 返せない品や引き取り手のない家財を置いていかなければ、相手も気持ちよく見送ることができますし、 こちらも後ろを気にせずに次の土地へ移れます。

旧居での挨拶に戻る

よくある質問

引越すとき、近所に手土産は必要ですか?

必須ではありません。言葉だけの挨拶で足ります。去る側からの品物は相手にお返しの機会がなく、かえって気を遣わせることもあります。

誰に渡しますか?

実際に世話になった相手、両隣と上下です。面識のない相手に渡すと、誰なのか分からない人から品物を受け取ることになり、戸惑わせます。

金額はいくらですか?

500円から1,000円で、新居の挨拶と同じで構いません。世話になった相手なら1,000円から2,000円程度です。

のしの表書きは何と書きますか?

「御礼」です。「御挨拶」と書くと、これから付き合いが始まるように読めます。去る側なので、感謝を示す表書きにしてください。

不要になった家財を譲ってもいいですか?

相手から欲しいと言われた場合だけにしてください。押しつけると、処分の手間を渡すことになります。

関係がこじれている相手にも渡しますか?

言葉だけにするほうが収まります。品物は詫びの意味に取られたり、逆に当てつけに取られたりします。

まとめ

  • 必須ではない
  • 世話になった相手に絞る
  • 表書きは「御礼」
  • 家財を押しつけない

参考情報

  1. 三越伊勢丹「のし紙とかけ紙の正しいマナー」
    https://www.mistore.jp/gift/manner/knowledge/noshi_mizuhiki/article/noshi_manner.html
  2. 高島屋「進物の基礎知識」
    https://www.takashimaya.co.jp/giftnavi/shinmotu_01.html
  3. e-Gov法令検索「民法」(第209条〜 相隣関係)
    https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089

近所付き合いの作法に、守らなければ違反となる公的な基準はありません。本記事は広く共通して挙げられる目安をまとめたものです。地域の慣習・建物の管理規約・自治会の取り決めによって実際には異なります。(最終確認:2026年8月)

本記事で紹介している作法は一般的な目安です。近所付き合いは地域差がとくに大きい分野で、同じ市内でも慣習が違うことがあります。可能であれば、不動産会社や管理会社、先に住んでいる方に一度確認してください。