結論
子どもと暮らす家庭が引越しの挨拶で先に伝えておきたいのは音のことで、 越してくる前に一言断ってあれば、後から響いてくる足音も聞いていたとおりのものとして受け取ってもらえます。 何も知らされないまま天井が鳴りはじめると、同じ音が正体の分からないものとして相手の側に積み上がっていきます。
回る先も大人だけの世帯より広げておく必要があり、集合住宅であれば真下と両隣に斜め下を足しておいてください。 走り回る足音は床を伝わって斜めの方向にも届きますので、真下の一軒だけを押さえておいても取りこぼしが出ます。
音への一言
小さな子どもを連れての引越しでは、荷物の数より先に、夜泣きの声や廊下を走る足音のことが頭に浮かびます。 段ボールを運び入れている最中から、この部屋で泣き出したら下の階にはどう聞こえるのだろうかと気になりはじめます。
迷うのは、こちらから音の話を持ち出すのか、それとも何も言わずに越してきて様子を見るのかという分かれ道です。 先に言えば身構えさせてしまう気もしますし、黙っていて済むうちは黙っていたいという気持ちのほうも働きます。
| 状況 | 相手の受け取り方 |
|---|---|
| 先に断ってある | 聞いていたとおりの音として受け取ってもらえます |
| 何も聞いていない | 正体の分からない音として苦情に向かいます |
| 言い方 | 「うるさくしてしまうかもしれません」と伝えます |
| 年齢を伝える | 「3歳です」という程度で十分に足ります |
| 言わずに済ませる | 後から切り出しにくくなり、機会を失います |
先に断っておくと、苦情になるはずだったものが相談のほうへ変わります。知らない相手から降ってくる音はただ我慢するしかありませんが、事情を知っている相手であれば「洗濯機の時間を少し早めてもらえますか」と持ちかけられますので、こじれる前のところで話が済みます。
先に断ってあれば、玄関の扉が閉まる音や廊下を走る足音が下の階へ届いたときも、相手の頭のなかではあの家の子どもだという説明がその場で付きます。 説明の付いた音はそこで止まってその日のうちに忘れられますが、説明の付かない音は毎晩少しずつ積み上がっていきます。
伝える中身は、子どもがいることと、おおよその年齢という二つだけで足ります。 何人いて何歳何か月で、どの部屋で寝ていてというところまで玄関先で並べると、立ち話が長くなるうえに相手も返す言葉に困ります。
音がどれだけ実際の揉め事になっているかは、国土交通省が5年に一度行っているマンション総合調査から見当がつきます。 令和5年度の調査は令和5年10月から令和6年1月にかけて全国の管理組合4,270組合へ配られ、1,589組合から有効な回答が返っています。
過去1年間に起きたトラブルとして居住者間の行為やマナーをめぐるものを挙げた管理組合は60.5パーセントに上り、その具体的な中身では生活音が43.6パーセントで最も多く、違法駐車の18.2パーセントやペット飼育の14.2パーセントを引き離しています。 これは住民一人ひとりの感じ方を尋ねたものではなく、管理組合が把握しているトラブルの有無を答えたアンケートですので、表に出ないまま我慢されている音はここに数えられていません。
回る範囲を広げる
挨拶の範囲は両隣と真上と真下の四軒だと教わることが多く、洗剤やタオルもその数だけ買って玄関に積んでおくことになります。 ところが子どもと暮らす家庭では、この四軒を回っただけでは音の届く先を覆いきれません。
どこまで足すかを分けるのは、こちらの出す音が壁を伝わっていくのか、それとも床を伝わっていくのかという違いです。 声は隣へ、足音は下へと向きが決まっていますので、住む階と建物の形しだいで足しておくべき先が変わってきます。
| 位置 | 扱い |
|---|---|
| 真下 | 足音がもっとも強く届く一軒になります |
| 斜め下 | 四軒に足しておくと、後から助かります |
| 両隣 | 泣き声や話し声が壁越しに届きます |
| 一戸建ての隣家 | 庭で遊ぶ声が、塀を越えてそのまま届きます |
| 1階に住む場合 | 下の階への気遣いは、はじめから要りません |
子どもがいるなら1階の部屋を選ぶという決め方もあります。下に住戸が無ければ足音をめぐる話がそもそも起こりませんので、これは挨拶の範囲をどう広げるかより前の、物件を選んでいる段階で片づけておける問題です。
斜め下が抜け落ちるのは、間取り図を頭に浮かべたときに真下の一軒しか出てこないためです。 床を踏み込んだ振動はコンクリートの床板や梁を伝って横へも広がりますので、真下の住戸で聞こえている音が、その隣の住戸でも同じくらい聞こえていることがあります。
一戸建てへ越す場合は、上下の階の代わりに庭と道路の側を見ておいてください。 縄跳びやボール遊びの声は塀を越えて隣家の窓へ入りますし、夏に窓を開けて過ごす家であれば、家のなかで話している声まで届くことになります。
子どもを連れて行くか
挨拶に回る当日、子どもを玄関先まで連れて行くのか、荷ほどきの途中の部屋に残して大人だけで回るのかで手が止まります。 ぐずっている乳児を抱えたまま何軒も階段を上り下りしていると、こちらの体力のほうが先に尽きてしまいます。
決め手になるのは、子どもの年齢と、回るのがいつなのかという二つです。 顔を見せておくことでその後の暮らしが楽になる年ごろと、連れて行っても玄関先の立ち話が長引くだけの時期とが、ここで分かれます。
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 幼児・小学生 | 連れて行くと、顔を覚えてもらえます |
| 乳児 | 無理に連れて行かなくて構いません |
| 中高生 | 行くかどうかは本人の意思に任せます |
| 引越し当日 | 大人だけで回るほうが、早く済ませられます |
| 子どもが挨拶する | 名前を言って頭を下げるだけで十分です |
顔を覚えてもらっておくと、越してから先で助かる場面が出てきます。通路で行き合ったときに声をかけてもらえますし、一人で外へ出てしまったときや道で転んだときにも気づいてもらえますので、地域のなかで子どもを見ている目がそれだけ増えることになります。
幼児を連れて行くと、玄関を開けた相手の顔つきがその場で変わることがあります。 差し出した品物より先に子どもの背丈のほうへ目が行きますので、音の話も持ち出しやすくなり、これくらいの年ごろなら走りますよねという受け答えが向こうから返ってきます。
引越し当日は業者の出入りが続いて、子どもは積み上がった荷物のあいだで手持ち無沙汰になります。 その日は大人だけで先に回っておき、前日か翌日の落ち着いた時間に子どもを連れてあらためて訪ね直しても差し支えありません。
伝え方の加減
音の話をすると決めたあとでも、玄関先で実際に口にする段になると言葉が定まりません。 深く頭を下げて長く詫びれば相手のほうが気を遣いますし、笑って軽く流せば、わざわざ言った意味がなくなります。
分かれ目は、こちらが先に許しを取り付けようとしているのか、それとも後から言ってもらう余地を残しているのかという一点です。 同じ音の話をしていても、この向きが逆になるだけで、受け取る側にとってはまるで違う言葉になります。
| 言い方 | 受け取られ方 |
|---|---|
| 「うるさくしてしまうかもしれません」 | 身構えさせずに伝わる、ちょうどよい形です |
| 「気になることがあれば言ってください」 | 相手の側から切り出しやすくなります |
| 「子どもなので仕方なくて」 | 我慢するようにと求める形になります |
| 長く謝り続ける | 相手のほうが、かえって気を遣うことになります |
| 何も言わない | 後から言い出しにくくなってしまいます |
「気になることがあれば言ってください」まで添えておくと、相手のなかに伝える道が残ります。この一言があるかどうかで、後日の申し出が管理会社を経由した苦情として届くのか、玄関先での相談として直に届くのかが分かれてきます。
うるさいですがよろしくお願いしますという形でお願いしてしまうのだけは、玄関先で出さないでおいてください。 言われた側はその場で分かりましたと答えるほかありませんし、断る道をふさがれた相手は、後から音が気になったときにも言い出せなくなります。
詫びの言葉は一度で足りますので、玄関先で何度も頭を下げるのはかえって逆に働きます。 まだ何も困っていない相手に、大丈夫ですと繰り返す役目を負わせることになりますし、これから始まる付き合いの入り口としては重くなりすぎます。
越してきた後
挨拶を済ませて段ボールを片づけ終えても、音をめぐる話はそこで終わりません。 子どもが新しい家に慣れてくるにつれて、走り回る範囲も声の大きさも、越してきた日よりむしろ広がっていきます。
ここから先で効いてくるのは、音を完全に消せたかどうかではなく、気にしている様子が相手に見えているかどうかです。 同じだけの音でも、手を打っている家から出ているのか、何もしていない家から出ているのかで受け取られ方が分かれます。
| 対応 | 内容 |
|---|---|
| 防音マットを敷く | 走ったときの足音が、はっきり減ります |
| 夜は静かに過ごす | 時間帯で、遊び方のほうを分けておきます |
| 会ったときに一言 | 「うるさくないですか」と尋ねておきます |
| 苦情を受けたら | まず詫びて、これからの対応を伝えます |
| 言い返す | その後の関係が、元へは戻らなくなります |
廊下やごみ置き場で会ったときに「うるさくないですか」と一度尋ねておくと、相手の側にためこまれません。上の階へ苦情を言いに行くのは誰にとっても気の重い行いで、切り出せないまま我慢が続けば、それは管理会社への申し立てという形に変わって出てきます。
防音マットは、子どもがよく走る廊下沿いとテレビの前だけでも敷いておくと違ってきます。 部屋の隅々まで覆わなくても、いちばん踏み込みの強くなるところが柔らかくなれば、下の階へ届く音の芯が弱まります。
苦情を受けたときは、その場で言い返さないでおいてください。 こちらにも言い分があるとしても、いったん詫びてからマットを敷き足すなり夜の遊び方を変えるなりの手立てを伝えるほうが早く収まりますし、玄関先で言い合った記憶のほうは、その後に何をしても残り続けます。
騒音で迷惑をかけたときの詫び方を見る子どもの出す音に、ここまでなら許されるという線が引かれているわけではありません。 建物の造りも、下の階に住んでいる方の暮らし方も一軒ずつ違いますので、 越してみるまでどのくらい響くのかは分かりませんし、同じ足音でも昼と夜とでは届き方が変わります。
どの家でも変わらないのは、先に断っておくことと、後から言ってもらう道を残しておくことの二つだけです。 この二つさえ押さえてあれば、音が出てしまった日でも相手のなかに説明が付きますし、 気になったときにも苦情ではなく相談の形でこちらへ届きます。
よくある質問
子どもがいる場合、挨拶で音のことを言うべきですか?
先に断ってください。知らされていれば「聞いていたとおり」で済みますが、何も聞かされていない相手のもとでは、正体の分からない音として苦情に向かいます。伝えるのは、子どもがいることとおおよその年齢の二つで足ります。
どんな言い方がいいですか?
「うるさくしてしまうかもしれません」に「気になることがあれば言ってください」を添えてください。この一言があると、苦情が管理会社ではなく直接来るようになります。
挨拶に回る範囲は広げますか?
斜め下を加えてください。走る音は床を伝わり、真下だけでなく斜め下にも響きます。一戸建てなら、庭で遊ぶ声が届く隣家も範囲に入ります。
子どもを連れて挨拶に行くべきですか?
幼児や小学生なら連れて行くと顔を覚えてもらえます。通路で会ったときに声をかけてもらえたり、迷子や事故のときに気づいてもらえたりします。乳児は無理に連れて行かなくて構いませんし、中高生は本人の意思に任せてください。
「子どもなので仕方なくて」と言ってもいいですか?
我慢を求める形になります。相手は断れません。伝える道を残す言い方にしてください。長く謝り続けるのも、相手に気を遣わせるだけです。
越してきた後にできることはありますか?
防音マットを敷き、夜は静かに過ごすことです。会ったときに「うるさくないですか」と聞いておくと、ためこまれません。相手から切り出すのは難しく、我慢が続くと苦情の形で出ます。
まとめ
- 音のことは、越してくる前に一言断っておきます
- 伝えるのは子どもがいることと、おおよその年齢で足ります
- 集合住宅では四軒に斜め下を足して回ります
- 幼児や小学生なら、連れて行って顔を見せます
- 「気になることがあれば言ってください」を添えます
- あらかじめ許しを求める言い方はしません
- 越してからは防音マットを敷き、夜は静かに過ごします
- 苦情を受けても、その場で言い返しません
参考情報
- e-Gov法令検索「民法」(第209条〜 相隣関係)
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089 - 国土交通省「令和5年度マンション総合調査結果〔概要編〕」(2024年6月21日公表)
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001750161.pdf
本文で引用した国土交通省「令和5年度マンション総合調査」は、令和5年10月から令和6年1月に全国の管理組合4,270組合へ配布し1,589組合から回答を得たもので、住民一人ひとりの感じ方ではなく管理組合が把握しているトラブルを答えたアンケートですので、表に出ないまま我慢されている音は含まれません。近所付き合いの作法に、守らなければ違反となる公的な基準はありません。本記事は広く共通して挙げられる目安をまとめたものです。地域の慣習・建物の管理規約・自治会の取り決めによって実際には異なります。(最終確認:2026年8月)
本記事で紹介している作法は一般的な目安です。近所付き合いは地域差がとくに大きい分野で、同じ市内でも慣習が違うことがあります。可能であれば、不動産会社や管理会社、先に住んでいる方に一度確認してください。