結論
居酒屋であっても入口から遠い席が上座という考え方は変わらず、 料亭でも大衆的な店でも、判断のもとになるのは店の格ではなく扉との距離です。 扉の近くほど人の出入りで落ち着いて座っていられない、 というだけの理由でそう決まっています。
そのうえで幹事は入口にいちばん近い席に座りますが、 これは遠慮からではなく、注文や会計のたびに立ち上がる役目を引き受けているからです。 幹事が奥に座ってしまうと、席を立つたびに周りの人が膝を引いて道を空けることになります。
基本の考え方
会社の飲み会で暖簾をくぐると、まだ料理も出ていない座敷におしぼりだけが並んでいて、 どこに腰を下ろすべきかを数秒のうちに決めなければなりません。 先に座った人の位置につられて、 なんとなく空いたところに落ち着いてしまうこともよくあります。
居酒屋でも席次の考え方そのものは変わらず、 見るのは落ち着いて座っていられる席かどうかという一点だけです。 人が横を通らず、店員さんに声をかける役目も回ってこない位置が上座にあたりますから、 店の格が変わってもこの見方はそのまま使えます。
| 上座の条件 | 説明 |
|---|---|
| 入口から遠い | 人の出入りがないので、落ち着いて座っていられます |
| 通路から離れている | 料理を運ぶ動線にかからず、肘も当たりません |
| 呼び出しボタンから遠い | 注文や追加を頼む役目が回ってきません |
| 奥まった側 | 背後を人が通らないぶん、気を抜いて座れます |
居酒屋の席では、席次を厳密に守らない場のほうがむしろ多くあります。気心の知れた同僚だけの席なら着いた順に座っても誰も気にしませんが、上司や取引先が同席するときにはやはり見られていますし、後日その話が出ることもあります。自分がどこに座るか迷ったときは、入口寄りの席を選んでおけばまず外しません。
困るのは、案内された座敷が引き戸で仕切られていて、 どちらが入口なのかひと目では分からない造りのときで、 廊下側と窓側のどちらが奥なのか判断がつきません。 誰も先に腰を下ろせず、掘りごたつの角を挟んで全員が立ったまま様子をうかがう数十秒が生まれます。
そういうときは、店員さんが料理を運んでくる方向を見ておくと迷わずに済み、 店員さんが出入りする側が下座、その反対側が上座と考えればまず外しません。 それでも分からなければ、 上位の方に「こちらへどうぞ」と奥を手で示してしまうほうが早く決まります。
席の形別
居酒屋にはほかの飲食店では見かけない席の形が多く、 掘りごたつ、座敷、コの字に組んだ長机と、店ごとに造りがまるで違います。 予約の電話では「お座敷で」としか聞いていないことも多いので、 当日その場で判断することになります。
形が変われば見るべき目印も変わり、 テーブル席なら入口との距離で決まるところが、 座敷では床の間があるかどうかのほうが先に効いてきます。 入口の位置が分かりにくい配置も少なくないため、 何を目印にするかを先に決めておくと迷いません。
| 席の形 | 上座 |
|---|---|
| テーブル席 | 入口からいちばん遠い奥の席が上座になります |
| 掘りごたつ | 入口から遠い側に上位の方が座ります |
| 座敷 | 床の間があれば、その前が上座にあたります |
| 個室 | 襖からいちばん遠い席を上座と考えます |
| コの字型(長机) | 中央の奥が上座で、その両脇に上位者が並びます |
| カウンター | 店の造りによって変わるので、店に尋ねます |
大人数でコの字型に長机を並べた席では、中央のいちばん奥が上座になります。そこは全員の顔が見える位置で、挨拶や乾杯の音頭を取るときにも声が行き渡りますし、わざわざ立って移動せずに済みます。机の端に近づくほど下座になると考えておけば、それで差し支えありません。
座敷でいちばん迷うのが床の間の扱いで、 掛け軸と一輪挿しが置かれた一角があれば、 入口からの距離よりもその前を上座とする決まりのほうが優先されます。 最近の居酒屋では床の間のある座敷そのものが減っていますから、 見当たらなければ入口からの距離だけで決めてかまいません。
カウンターだけは店によって考え方が違い、 板前さんの正面が上座になる店もあれば、 単純に入口から遠い端を上座とする店もあります。 予約のときに「上席はどちらになりますか」とひと言尋ねておけば、 当日その場で悩まずに座れます。
幹事の位置
幹事を任されると、自分がどこに座るかまでは誰も教えてくれず、 上座を空けることばかり気にしているうちに、 いつのまにか自分が奥へ押し込まれていることがあります。 乾杯が済んで最初の追加注文をしようと腰を浮かせたときに、 はじめて座る場所を間違えたことに気づきます。
幹事の席を決めるのは上下ではなく その席から何回立つことになるかで、 注文、追加、会計、遅れて来る人の出迎えと、席を離れる用事が次々に回ってきます。 席を立つ回数が多い人ほど通路に近い側に座っておくほうが、 卓全体としては静かに収まります。
| 立場 | 位置 |
|---|---|
| 幹事 | 入口にいちばん近い席に座り、動きやすくしておきます |
| 最上位の方 | 入口からいちばん遠い席へ案内します |
| 若手 | 入口寄りに座って、注文や取り分けを引き受けます |
| 主賓(歓送迎会) | その日の主役として、上座に座ってもらいます |
| 遅れて来る人 | 入口寄りの席をひとつ空けて待ちます |
遅れて来る人のために、入口寄りの席をひとつ空けたままにしておいてください。その人を奥へ通そうとすると、途中に座っている全員がいったん立ち上がって道を空けることになり、話の途中でも場がそこで止まってしまいます。入口寄りの席が空いていれば、上着を壁のフックに掛けてそのまま腰を下ろせます。
実際に困るのが、掘りごたつのいちばん奥に幹事が座ってしまった席で、 伝票を取りに行くたび、飲み物を頼むたびに、 三人分の膝を越えて通ることになります。 その動きが料理の運ばれてくる時間と重なると、 大皿を持った店員さんと狭い通路ですれ違えなくなります。
座る前に通路側の一列を幹事と若手で押さえてしまうのがいちばん確実で、 上位の方から順に奥へ案内していけば、自然とその形に収まります。 呼び出しボタンも卓上の伝票立ても手元に来ますから、 注文から会計まで座ったまま進められます。
事情がある人
席次より先に考えなければならない事情があり、 膝が悪くて正座ができない、途中で何度も席を立つ必要があるといったことは、 本人からはなかなか言い出せません。 座布団の上で足を崩してよいものか迷ったまま、 二時間の宴席をずっと我慢している人が実際にいます。
ここで見るのはその席に最後まで座っていられるかどうかで、 上座か下座かという並びより、体の負担のほうが先に来ます。 幹事のほうから先に手を回しておけば、 本人が席で事情を説明する場面そのものが生まれません。
| 事情 | 配慮 |
|---|---|
| 正座ができない | 掘りごたつか椅子席のある店を選びます |
| トイレが近い | 通路側の、席を立ちやすい位置に座ってもらいます |
| 耳が聞こえにくい | 静かな側で、聞こえるほうの耳を内側にします |
| 妊娠中 | 煙の来ない席で、出入りしやすい位置にします |
| 車椅子 | 予約の電話で、あらかじめ店に伝えておきます |
いちばん確実なのは、店を決める段階で本人にそれとなく聞いておくことです。当日になってから席を入れ替えるより、はじめから掘りごたつのある店を選んでおくほうが本人の負担になりませんし、人前で席順を直す場面そのものが生まれません。参加者を募る最初の連絡に、その一行を添えておくだけで足ります。
聞き方にも気を使うところがあり、 みんなの前で「正座は大丈夫ですか」と尋ねてしまうと、 本人は大丈夫だと答えるしかなくなります。 個別の連絡で「座敷と椅子席のどちらがよいですか」と全員に聞けば、 誰の事情も表に出ないまま希望だけが集まります。
予約の時点であれば店にも相談できることが増え、 掘りごたつの席を指定する、通路側の椅子を一脚外して車椅子のまま入れるようにするといった手配も間に合います。 当日の店内でできるのは席の入れ替えくらいですから、 この差は思っているより大きく出ます。
途中で動くか
飲み会が進むと、瓶を持って席を移り、 上司や普段話さない人に一杯注ぎに行くという場面があり、 行くべきなのかそのままでよいのかで迷います。 隣の席の誰かが瓶を持って立ち上がると、 自分も動いたほうがよいような気になってきます。
この習慣は長く続いてきたものですが、 いまは必ずしなければならないものではなく、 席を動かなかったからといって失礼にあたることはありません。 決め手になるのは自分が動くべきかどうかではなく、 その場がどう流れているかのほうです。
| 状況 | 目安 |
|---|---|
| 席を回る | 必須ではないので、動かなくても失礼になりません |
| 話したい人がいる | そのときは席を移って構いません |
| 全員が動く場 | 流れに合わせて動くほうが自然に収まります |
| 長く居座る | 元の席に戻らないと、隣の人が座れなくなります |
| 通路をふさぐ | 料理を運ぶ店員さんが通れなくなります |
席を移動するときも、通路に立ったまま話し続けるのだけは避けてください。両手に大皿を持った店員さんが通れなくなりますし、後ろから来た人が回り込もうとして卓のグラスに肘を当ててしまいます。移動するなら空いている席にいったん腰を下ろし、話が長くなる前に自分の席へ戻ります。
実際に多いのが、注ぎに行った先で話が弾み、 そのまま三十分も居座ってしまう形で、 戻ってきたときには元の席に別の人が座っています。 空いた席のぶんだけ会話の輪が切れてしまい、 残された側は手持ち無沙汰のまま料理をつついていることになります。
動くと決めたなら、一杯注いで二言三言かわしたら戻るというくらいの長さがちょうどよく、 話が続きそうなときは「後ほどまた」と言っていったん席に戻ります。 お酒が進んでいる人ほど足元が危うくなりますから、 料理が運ばれている時間帯は座っているほうが安全です。
居酒屋の席の決め方に唯一の正解があるわけではなく、 店の造りと、その日に誰が来るのかを見て、 いちばん無理のない形に落ち着けばそれで十分です。 気心の知れた顔ぶれだけなら着いた順で構いませんし、 取引先が同席する席であれば、入口からの距離だけは意識しておきます。
どんな席でも変わらないのは、上座を空けておくことと、 事情のある人を先に楽な席に座らせることの二つだけです。 この二つさえ押さえておけば、細かい形を思い出せなくても、 その場にいる誰かが困るということは起きません。
飲食店の席次の基本を見るよくある質問
居酒屋でも上座・下座はありますか?
あります。入口から遠い席が上座で、考え方は他の飲食店と変わりません。ただし厳密に守らない場も多く、上司や取引先がいる席で意識されます。迷ったら自分が入口寄りに座れば外しません。
掘りごたつや座敷ではどう判断しますか?
掘りごたつは入口から遠い側、座敷は床の間があればその前が上座です。個室では襖から遠い席になります。
大人数のコの字型テーブルでは?
中央の奥が上座で、両脇に上位者が並びます。全員から見える位置で挨拶もしやすくなります。端に行くほど下座と考えて差し支えありません。
幹事はどこに座りますか?
入口に最も近い席です。注文、追加、会計、遅れて来る人の案内で席を立つ回数が多いためです。奥に座ると、通るたびに全員が動くことになります。
正座ができない人がいる場合は?
店を決める段階で聞いておき、掘りごたつか椅子席のある店を選んでください。当日に席を調整するより、本人の負担になりません。
途中で席を移動して注ぎに回るべきですか?
必須ではありません。動かないことが失礼にはあたりません。話したい人がいるなら移動して構いませんが、通路に立ち続けないでください。店員さんが料理を運べなくなります。
まとめ
- 入口から遠い席が上座
- 幹事は入口寄り=動く席
- コの字型は中央奥が上座
- 事情がある人は店選びで配慮
参考情報
- 農林水産省「食文化のポータルサイト」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/index.html - 農林水産省「『和食』がユネスコ無形文化遺産に登録されています」
https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/ich/
食事の作法に公的な基準はありません。本記事は広く共通して挙げられる目安をまとめたものです。地域・店の格式・間柄によって実際には異なります。(最終確認:2026年8月)
本記事で紹介している作法は一般的な目安です。細かな作法を完璧に守ることより、同席する人が気持ちよく食べられることのほうが大切です。格式の高い店や改まった席では、店の案内に従ってください。